2011年2月22日火曜日

ソード男子 (3)

 「まず聞きたいんだけどさ、何でお前俺を殺そうとしたの?」僕はうつぶせのまま無視することにした。どうせ自殺するつもりだったし、こいつの機嫌を損ねて結果的に殺されることになったとしても、それはそれで良いと思った。
 「だってさ、はっきり言って意味分かんねえし。お前全く初対面じゃん?俺と?まあ最近だと誰でも良いって奴も居るからお前もそうなの?」僕は何も答えない。殺せよ。うんこ野郎。
 「・・・へぇ~お前何も答えないし、何も喋らない気でしょ?俺がお前をぶっ殺してやるとでも思ってんの?ちょっと待ってな。いいもん持ってきてやるから。」赤髪シンジ(仮)は僕の傍を離れて行った。何を持ってくるんだろう?
 赤髪シンジ(仮)が帰ってきた。彼の足の重量が僕の耳の横にある畳を押しているのが分かる。
 「これさぁー村上春樹の小説で見たんだけど、実際相当苦しいらしいからちょっとお前で試してみるわ。」赤髪シンジ(仮)がうつぶせに倒れた僕の両手を縛りながら言った。なるほど、何か使って僕に無理矢理何かを喋らせる気らしい。まあ、僕にとっては丁度良い。死のうとしてたんだから大丈夫。
 「『海の底を歩くような気分』になるらしいよ。お前歩いたこととか無いでしょ?多分?はは。まあ当たり前か。えいっ。」赤髪シンジ(仮)は僕の頭に何か被せてきた。そして僕の首の上からかぶせたものごと僕の首を紐みたいなもので縛った。ビニールの臭いがする空間に僕の体温が充ちた。彼は袋詰めにされた僕の顔に自分の顔を触れるように近づけた。
 「お前さぁ?もしかして全部諦めようとしてたんじゃねぇ?自分で死ぬとか、学校止めるとかさ。その類の諦め。」赤髪シンジ(仮)が少し強く僕の首を絞めた。苦しい。
 「でもさぁ、こういう諦めができる奴って結局ただの『怖いもの知らず』なんだよな。自分の行動の結果に対する想像力が足りてないんじゃないのかなぁ。」かなり苦しくなってきて僕は溜まらず組まれた腕に力を込める。
 「ほら?もがいてるじゃん?このまま続けたら死ねるよ?和ちゃん?」かなり苦しい。涙と鼻水が出てきた。
 「それはやっぱり『悪』だよねぇ?悪いことだよ?それは。理解から逃げたまま、自分や誰かを『損な」うんだから。お前には『具体的な理解』が欠けているんだよ。今生きてる自分が背負う痛みや苦しみについて、『死んだお前』や『損なわれた未来のお前』、『お前じゃない誰か』が負う『はず』の理解しか持ってないんだよ。お前は。」僕は縛られた両手をばたばたさせながら、相当な苦しみを味わっていた。目から涙が頬を伝って流れ、ぐじゅぐじゅの鼻水は僕の鼻から大きく開かれた口に入り込んで塩気のある味をさせていた。
 「俺はお前が今を理解しないことを許可しない。」赤髪シンジ(仮)がそう言うと縛りが少しゆるくなり、顔に触れていた彼の重量が消えた。僕は再び僕の中に入ってきた空気を死に物狂いで吸い込んだ。と、吸い込んだとたん、再び首の圧迫が強くなり、僕はまた苦しみの渦の中へ入った。赤髪シンジ(仮)は再び僕の顔に自分の顔をくっつけた。
 「俺はお前にお前が本来負うべき苦しみを『今生きているお前の苦しみ』として気付かせてやる。具体的に理解させてやる。『死んだお前』や『損なわれた未来のお前』、『お前以外の誰か』じゃなく、『今生きているお前』に。はは。いやマジなんでな?俺はこの作業を必要に応じて機械的に10時間以上継続することが可能だし、お前は『今生きているお前』から逃れることができんよな?はは。」
 赤髪シンジ(仮)は容赦なく僕の中から再び空気を奪って行った。そして容赦なく僕に空気を与えていった。
 

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