「ほら、買ってきたよ、ほれ」3日前まで赤髪シンジ(仮)だった不死原快楽は僕にカップヌードルを渡してきた。「ちょ・・・エビ入ってんじゃんかー。僕甲殻類アレルギーだって言ったじゃん。」「ああ、そうだったなお前。じゃあ俺のスーパーカップと交換しよ。ほれ」僕はスーパーカップ鶏ガラしょうゆを受け取ると、ふにゃふにゃした食感を味わいながらずるずるすすった。
3日前、赤髪シンジ(仮)は僕に拷問のような苦痛を2時間ほど与えた後、「分かったかボケ」と言い残してそのまま部屋を出て行き、帰って来なかった。僕は両手両足が不自由なままだったので、顔が鼻水と涙でずるずるになったままうつぶせで眠ることになった。彼に対する怒りは勿論あったのだが、あまりに昨日と今日とで状況が変わりすぎていたので、僕は疲れていた。意味が分からなかった。今日の朝は代ゼミの模試を受けるつもりで家を出たのに。
彼が部屋を出てからしばらく僕は鼻息荒くぶしゅぶしゅ音を立てながら畳に伏していたのだが、1時間も経たないうちに眠っていた。夢は見なかった。
「おい、和ちゃん、起きてよ。伸びるから。おい、ほら、おい」翌日はこの声と僕のわき腹をぐりぐりされる刺激で目が覚めた。「ぶっはは。いろいろ顔すごくなってんじゃねえの。畳の痕とか。ほれ、シーフード」見上げると赤髪シンジ(仮)がカップヌードルのシーフード味を僕に差し出していた。僕は反射的に体を起こそうとしたが、両手両足が繋がれたままであることに気付いた。「あーそれ、解いてやるわ。じっとしとけよ」赤髪シンジ(仮)は両手のカップヌードルとどん兵衛を畳に置くと、僕の手首に食い込んでいた紐をぐいぐい引っ張りながら解き、ついでに足首に厳重に巻き付いていたリードも外していった。「クソがもう・・・マジ誰が錠なんかかけたんだよ・・・ボケッ・・」赤髪シンジ(仮)はぶつぶつ言いながらぐいぐい乱暴に引っ張って僕の足首からリードを外した。「よしよしこれで動けるな。変なこと考えんなよ雑魚助。分かってんなおい。ほれ」彼は僕にカップヌードルを差し出した。僕は差し出された白いカップを見ながら「いや・・・無理、多分それ、エビ入ってると思う・・・」と言った。
それからすぐに僕達は畳の上に胡坐をかいてカップラーメンを食べた。どん兵衛の味が初めておいしいと僕は思った。かまぼこがうまい。全くの無言で食べたのだが、食べ終わるとすぐに赤髪シンジ(仮)は「自己紹介コーナーー!ウィィィィイ!!」と言って直立し、一人で盛り上がって拍手しながら「俺の名前は不死原快楽だー!!」と大声で僕に言った。「かいらく・・・さん?え?字は?」「快楽だって。快晴の『快』に円楽の『楽』。」「え、・・・本名なん、ですか?」「敬語使うなや。タラちゃんかお前は。本名本名。ド本名。え?何お前?馬鹿みたいな名前だと思ってんの?」「いや・・・別に」「お前な、俺がお前みたいな名前だったら逆に困るだろうが。サトシとかタケシとかカスミって顔じゃねえだろが。どっちかって言えばピカチュウじゃなくてマタドガスみたいな感じだろが」「いや・・・知りませんけど」「まあいいけど。それよりお前ってどこの高校なん?」「天木大学付属高校・・・」「ふーん。いいとこじゃんか。知らんけど。名前がな。いいと思うわ。じゃあそこにするわ」「え?」「だからそこにするんだって。俺の転入先」
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