北島(弟)のもたらした情報によれば、二階堂グループは本日午後15時50分のチャイムを合図に僕たち「イタリア料理同好会」が拠点としている1階の家庭科教室に攻め込んでくるとのことだった。「奴ら本気みてえだ・・・」と1学期の家庭科の時間、裁縫で作ったクマの刺繍が施されたエプロンに身を包んだまま、北島(弟)がつぶやいた。僕は素直に北島(弟)の情報収集能力に感嘆していた。この「イタリアン料理同好会」の発起人たる北島(兄)と同様、北島(弟)は要所要所で自らの身を危険に晒す勇気を持っている。
しかし、北島(弟)の言う「15人」という相手の数を聞いて僕は焦っていた。「イタリア料理同好会」は未だ「同好会」で、いわゆる正式な「クラブ」ではなく、はっきり言って僕たち内輪の集まりみたいなものである。何より戦闘経験が浅い僕たちにとって、数で勝っている二階堂グループと争うことはプレッシャーであった。僕は机に備えてつけられているシンクから目を反らし、黒いカーテンで覆われた窓の方を見た。カーテンの表面のごわごわした感触が想像できるようだった。
僕たちの「イタリア料理同好会」は、北島(兄)・(弟)の家で僕と古川と北島(兄)の3人で「大乱闘スマッシュブラザーズX」をプレイしていた際に、ふと古川が「イタメシって何か知ってる?」とつぶやいたことが事の始まりである。古川の兄は古川より8つも年が離れていて、近所のファミリーマートで店長をやっている。古川によれば、「イタメシ」という言葉は彼が古川に僕から借りたままになっているエロ本を得るための代償として渡した初代プレイステーションの中に入ったままであった「サガ・フロンティア」で登場したらしい。僕としてはそこで初めて僕の大切なエロ本が彼の兄に又貸しされていることを知ったのだが、それよりも僕たちは「イタメシ」という語感に魅かれていた。
その日、僕は家に帰った後、いつもエロ情報を探すことにしか使っていないパソコンを利用して「イタメシ」という言葉を検索してみた。なるほど「イタメシ」というのは一般的に「イタリア料理」を指す言葉らしい。僕はもちろん今まで自分の意識の中で料理をカテゴライズしたことがなかったので、一体どんな料理が「イタリア料理」と呼ばれるのか気になって、エロ動画をダウンロードし過ぎて重くなったインターネットエクスプローラーを駆使していろいろな「イタリア料理」の画像に目を通した。
なるほど、スパゲッティやピザが日本ではメジャーなイタリア料理として認識されていることが分かった。しかし僕がこの検索において得た概観は「イタリア料理」=多分いけてるという漠然としたものであった。すなわち日本という国で社会通念上の「高級料理」の筆頭が「フランス料理」として中高年の口から出ているのに対し、「イタリア料理」は何か少しだけ斜め上を行っているような気がするのである。それはカタカナ英語の代わりに謎のスペイン語を多用する「BLEACH」が何かかっこいい感じがしたり、AKB48の代わりに洋楽を聴いているヤンキー連中が何かよく分からないけどかっこいい感じがしたりするのと同じだった。つまり僕は完全に中学生生活のど真ん中に居たのである。
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