2010年6月14日月曜日

メキシコ湾の原油流出事件について

 最近 CNN Anderson Cooper 360でおなじみのAnderson Cooperみたいにかっこ良く喋るにはどうすれば良いかを研究するために、2年ぶりに360をポッドキャストで視聴しているのだが、ここ1週間はずっとアメリカでBP社が発生させた原油流出事件のことを報じている。日本ではワールドカップの影響で全くの対岸の火事状態ではあるが、アメリカでは結構大事らしい。なんせ、発生から50日も発っているのにまだ原油はぶわーっと流出し放題状態なのだから。
 この事件で取りざたされているのは、原油流出を止められていないことよりも、事件発生に至る過程、事件発生後のBP社の対応に対する不透明さである。Anderson Cooperはしきりにtransparency という単語を連呼している。例えば、BP社は事件発生後50日経過してからやっとどのぐらい原油が流出しているか、そのビデオテープをメディアや研究機関に渡したが、当初発表した映像は(おそらく意図的に)解像度の低い映像だったのだ。その違いは明らかで、やっと渡されたhigh-resolutionな映像を下にした分析結果(CNNではカリフォルニア大学の分析結果)は、1日平均約4万バレルもの原油が流出し続けているというものであった。
 更に、BP社は「安全第一」をモットーに掲げていたくせに、数年前からパイプの老朽化を指摘されていた事実を無視して営業を続けていた。結果として、爆発事故が発生し、11人の死者が発生した(アメリカのメディアの慣行?なのかは分からないが、死者の名前とどんな人物だったか、Anderson Cooperが一人ひとり読み上げていた)。360では事故の生存者5名にインタビューを行っていたが、上述した「安全第一」については、今現在は全く信頼できないとのコメントを得ている。そして、事故被害者を代表している弁護士はBP社の行為をCriminal(犯罪行為)だと述べていた。
 今日のロイター通信の報道によると、このBP社はイギリスの企業らしく、オバマ大統領は今回の事件の影響力を9.11の同時多発テロと同程度としており、両者の間で国際問題にもなりかねない様相である。もっとも国際法的な観点からすれば、今回のようなイギリスに属する全くの企業(=私人)の行為は原則的に国家責任を構成しない。あくまで例外として、例えばイギリスが同企業のある種の業務上の怠慢に対する「相当の注意義務」を欠いていた場合のみ、アメリカはイギリスの国家責任を追求できる。相当注意義務の程度であるが、現在通説的な見解となっている国内標準主義を採用すると、自国の国民に対する一般的な保護と同程度で足りるため、イギリスの国内法実行上合理性のある注意義務を果たしていると見れば、今回のケースはイギリスを不問とすることができる。本件の場合はこの辺でどちらとも解釈できそうであるが、テストで優の成績が欲しい人はイギリスの国家責任を客観主義に基づき(当該行為の国家への帰属と国際義務違反)肯定した後、責任解除の方法を論じればいいだろう。在テヘラン米国大使館事件とホルジョウ工場事件あたりは最低でも挙げておかないとダメだろう。
 もっとも現実の世界は感情を持った人間同士の交渉によって物事が進むようにできているので、米英の現在の関係性を考えてもどちらか一方が徹底的に一方を叩きつぶすような展開にはならないだろうが。これが北朝鮮やイランだと「やっぱりな」ということとなり、徹底的に叩きつぶそうとしたかもしれない。

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