ハサンは仰向けにシートに倒れてもがいていた俺の左手からナイフを抜いた。車内の乾いた空気に俺の絶叫が響く。ハサンは俺の足を抱えたまま、容赦無くもがく俺の左肩にナイフを突き立てた。焼け付くような痛みが走る。ハサンは荒々しい息遣いのまま、更にナイフを抜き、逆手に持ち替えた。
こんこんこんこん。俺の後ろで音がした。「すいませーん岡山県警の者なんですけど」ハサンは俺を突き刺そうとする手を止め、そのまま後ろを振り返り、ドアを開けた。開け放たれたドアから冷たい風が車内に吹き込んできた。そして、そのままハサンの姿は俺の視界から消えた。背後の方で男の叫び声と足音が聞こえる。
俺はシートからゆっくりと体を起こし、前方に見えるクリーム色の壁を見た。右手で押さえた肩からは血が流れて止まらない。太陽で照らされたクリーム色の壁には少しだけ、影が差し込んで来ていた。
(了)
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